「誰かに脅迫されて、自分の預金を引き出す時には、銀行のATMで暗証番号を逆順に入力すればよい。通常通りお金を引き出すことができるが、あなたが脅されていることが警察に通報される――真偽の程は不明だが、そんな噂を聞いた。」
Reverse Pin Numbers Enable Emergency Function - ha.ckers.org
これは、ha.ckers.orgの記事の最初の方を「超意訳」したものです。
脅迫信号の話
この話で思い出したのは、以下の本に載っている話です。
- 作者: Richard E.Smith,稲村雄
- 出版社/メーカー: オーム社
- 発売日: 2003/04
- メディア: 単行本
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この本では、自分が脅迫されていることを味方に通知するための信号を「脅迫信号」(duress signal)と呼んでいます*1。
本の中では、銀行の窓口、敵国で活動するスパイ、重要な情報システムの操作権限を持つ者など、プロが業務で使用することを暗黙の前提として、脅迫信号について説明しているように思います。
ATMのユーザは、プロではなく不特定の一般人です。一般人は訓練を受けていません。誤報も多いでしょう。多数の誤報があると、本当の通報は埋もれてしまいます(犯罪者が、意図的にそういう状況を作り出す可能性もあります)。
また、一般人が通報の方法を知っているということは、犯罪者達も同じ知識を持つことになります。逆順という単純なルールの場合、犯罪者は脅して暗証番号を聞き出し、自分でATMに行って、聞いたのとは逆順の番号を入力するかもしれません。
さらに、元記事のコメントにもありますが、あてずっぽうに暗証番号を入れた場合に、金が引き出せる可能性が2倍になります。数字4桁の暗証番号だと母数が少ないので、ちょっと怖い感じがします。
まあなんというか、アイディアとしては面白いですが、導入に際しては考慮すべき問題が多いもののように思いました。
噂の詳細
ネット上に、いくつか関連する情報がありました。
Urban Legends Reference Pages: Reverse PIN Panic Code
ATM SafetyPIN software - Wikipedia
以下は、これらのページの「超要約」です。
- このアイディアは、Joseph Zingherによって1994年に考案され、1998年に特許化された(SafetyPIN Systemという)。
- イリノイ州では、銀行にSafetyPINの採用を求める法案が2004年に成立したが、義務化はされていない。
- 他の2つの州でも法案化の動きがあったが、成立していない。
- いくつかの州警察が、SafetyPINを公に支持している。
- 銀行業界は関心を示しておらず、実際に採用されていない。
銀行業界が採用しないのは、コストの問題の他に、以下の理由でその効果を疑問視しているためだと書かれています。
- 通報を受けて、警察が出動しても手遅れ。
- 不自然な行動が脅迫者に気付かれて、通報者を危険にさらす恐れがある。
- 脅迫された強いストレス下で、逆順の暗証番号を計算するのは困難。
米国ではこういうものが真剣に議論されるほど、犯罪が多いということなんでしょう。
*1:ネットで調べると、burglar alarm、silent alarm、panic code、alert code という単語も見つかります。